平成30年度「日本デザイン学会奨励賞第3支部」報告

名 称
日本デザイン学会奨励賞第3支部
目 的
表彰制度による学生の研究・制作活動に対する評価
対 象
日本デザイン学会第3支部会員(教員)在籍の大学院、大学、短期大学において、 特に優秀な研究、制作を行った学生、大学院生
人 数
学部枠2名・大学院前期課程(修士)枠2名、大学院後期課程(博士)枠2名/各所属機関

受賞者:

(順不同)

椙山女学園大学

帰巣 -生きものの巣構造を応用したデザイン-
佐橋美帆(生活科学部 生活環境デザイン学科)
推薦者:山下健
生き物の巣に着目し、巣の構造を応用した仮設空間に取り組んだ。構造理解のため、疑似的な素材で生き物の巣を制作し、つくり方の特徴を抽出したのち、人間が入ることのできる大きさの構造物を制作した。適切な素材・工法を検討するため、何度も試作を行い、ビスなど用いずに組立て、分解可能な形態を導き出したことを高く評価した。

金城学院大学

記憶のかたち
安江亜姫奈(生活環境学部 環境デザイン学科)
推薦者:弓立 順子
近年の日本社会の問題である墓や仏壇に対し、変化する現代の生活スタイルに合わせた新たな故人を偲ぶ方法を提案している。記憶にアプローチする香りや手触りの要素を取り入れ、故人を身近に感じ、忙しい現代の生活の中で、静かな心休まる時間を作り出すデザインとなった。

福井工業大学

ハコブハコ ヒト・モノ・ココロを運ぶ
三田村春佳(環境情報学部 デザイン学科 環境・プロダクトデザインコース)
推薦者:池田岳史
本研究は、交通の中でも多くの課題を抱える「物流」に焦点を当あて、物流における?ムダ”を減らすことを研究の大きな目的としている。具体的には、第3セクターとして運行しているえちぜん鉄道を対象とした新しい貨客混載の在り方(システム)とリターナブルボックスの提案、制作を行った。現場に何度も足を運び、ヒアリング調査を重ねて研究にフィードバックしており、最終的には実現可能性が高い提案を行っている。さらに、利用者に理解してもらうためのメディアツール(リーフレットやロゴ等)のデザインも提案しており、その点についても高く評価した。
握る杖 持ち手を中心とした杖の研究
楠大和(大学院工学研究科 社会システム学専攻 デザイン学コース)
推薦者:池田岳史
杖の握りやすさや使いやすさをモデルの制作と使用感のテストを繰り返すことによって握り手の形状を形成していった。また、手のひらと握り手の接点圧力を測定するなど人間工学的な観点に加え、杖を持つことの安心感や不安、抵抗感など利用者の精神面に踏み込んだ観点をもって開発を行うことでこれまで杖を使わなかった利用者層への普及の可能性を示した。

名古屋学芸大学

素材と素材の音
福田凌也(メディア造形学部 デザイン学科 SDコース)
推薦者:中西正明
ピタゴラ装置風の動作機器を作り、様々な素材と素材が種々の動作でぶつかり合う音を表現した。視覚的にも面白い。
「ファッションにおける脱構築」
鈴木良麻(メディア造形研究科)
推薦者:黄ロビン
ファッション分野で脱構築と呼ばれるデザインの背景や表現手法を、哲学、建築分野の思想や技術と絡めて研究し作品制作を行った。作品では複数の対立軸を設定してデザインに反映させることで、形態操作の根拠を明らかにしている。また、実験的な試みの中にも製品化を意識し、服飾材としての妥当性も吟味している。(文責:内田和邦)
M U S U B I
松井るな(メディア造形学部 デザイン学科 ビジュアルコミュニケーションデザインコース)
推薦者:黄ロビン
 来たる2020年の東京オリンピックに向けて、外国の方々に日本の魅力をアピールすることを狙いに、日本人にとって身近な「おむすび」をテーマに取り上げ、おむすびの歴史、お米づくり、おむすび屋、具材、おむすびの皿まで、その文化について深く研究し、取材し、視覚伝達デザインとしての見せ方を工夫しながら、一冊の本「MUSUBI」にまとめた。さらに今回の東京オリンピックに参加する各国の、おむすびに合う具材をひとつずつ取り上げて、今までにないおむすびを考案し、実際に握って写真に収め、カタロログにした。ポスターも制作し、これらをまとめてひとつの空間に展示した。このMUSUBIのコミュニケーションデザインは、日本の魅力をあらためて伝えるだけでなく、グローバルに広がるおむすびの可能性を提案している。(文責:梶田渉)
技術革新に伴う新しいモビリティの在り方ーー愛着の持てる空間、空間の交換性の提案
飯柴頼(メディア造形研究科)
推薦者:黄ロビン
自動車を居住空間と駆動部分に分離し、愛着という概念で室内空間を再定義、都市型生活を営む家族が使うミニヴァンの将来形として提案している。外形スタイルは斜張橋のイメージを取り入れ浮遊するキャビン居住空間をサスペンドする。愛着という概念を、単に形態や使い勝手のみに限定せず居心地、室内空間での体験、家族・友人と過ごす時間経過、サーヴィスなどにも拡大して捉えようとしておりユニークかつ新しい捉え方である。(文責:大島誠)

名古屋工業大学

戯遊の商法 -地方都市型カジノの提案-
森本創一朗(工学部 建築・デザイン工学科)
推薦者:伊藤孝紀
若者の購買意欲の減少とインターネットを使った購入方法によって、既存の百貨店や商店街は大きな痛手を負っている。そのようななか、岐阜市柳ケ瀬商店街を対象に、新しい遊びのコンテンツ(カジノ)を挿入することで、購買意欲に加え、遊ぶ行為を誘発し活性化に寄与する提案である。社会に一石を投じる可能性があることから推薦する。

名古屋市立大学

「小児の頭部腫瘍の放射線治療における位置姿勢保持装置のデザイン設計要件の抽出」
加藤悠介( 芸術工学部 産業イノベーションデザイン学科)
推薦者:國本桂史
国立研究開発法人国立成育医療センターとともに「小児の頭部腫瘍の放射線治療における位置姿勢保持装置のデザイン設計要件の抽出」を行い、現場での実証研究とともに小児におけるガンマ線治療に大いに貢献した。
「介護用ロボットアームの最適化デザイン設計要件・Optimization design of robot arm for nursing care Design design requirement」
菊地有美子(芸術工学部 産業イノベーションデザイン学科)
推薦者:國本桂史
ロボットハンドの研究において革新的な構造を研究し、医療現場での実証研究を行ない、今後のロボットアーム・ハンドの利用の可能性を前進させた。

愛知県立芸術大学

手からウロコの触図展
林子翔(美術研究科博士後期課程 デザイン領域)
推薦者:柴崎幸次
  『手からウロコの触図展』は、林子翔の研究テーマである触知図形を活用した作品の研究発表展である。
動物や昆虫、貝類などをモチーフとした様々なグラフィックを、触覚情報として置き換え、わかりやすく美しいデザイン開発を研究している。作品は、視覚障害者に伝達しやすい素材や制作方法を研究し、触読監修を経て修正を重ねる方法で開発しており、全盲から弱視、さらに晴眼者の方にもそれぞれの楽しみが見出せるコンテンツとして制作されている。
本展は2019年2月13日~17日名古屋市民ギャラリー矢田で開催した。出品した触図作品は、誰もが楽しめるグラフィック作品と、ユニバーサルデザインとしての製品開発プロセスも展示した。新聞等のメディアにも取り上げられ話題を呼び、遠方からの来場者も多く滞在時間も長い、総じて満足度の高い展覧会となった。また視覚と触覚を意識してピクトグラムを作りあげるグラフィックデザイン手法も独創性があり、視覚的なグラフィックとしても洗練され、図像のわかりやすさの追求にも繋がっていることも評価している。よって本展及び作品を、日本デザイン学会奨励賞として推薦する。

長岡造形大学

地域連携による摂田屋醸造製品のPRを目的とした6次産業ビジネスの確立
近藤祐未(造形研究科 イノベーションデザイン領域)
推薦者:板垣順平
推薦対象者である近藤祐未(以下対象者と記述)は,上記活動チームの中心となって長岡市内の中小企業や地元農業高校と協力しながら長岡の特産品である味噌や醤油を使った商品を開発し,販売等を行った.また,その活動をビジネスモデルとして「第3回NIIGATAビジネスアイデアコンテスト」に応募し,応募総数42組の中からグランプリを受賞した.デザイン・造形系の分野で当該コンテストのグランプリを受賞したのは初めてである.また,対象者は,この取り組みを修士研究のテーマとして,先般開催された日本デザイン学会第三支部研究発表会においても口頭発表を行った.対象者の研究は,地域・産業の活性化や大学の社会貢献の一助となり得る実践的な研究であり,デザイン・造形系の大学における地域連携や産学連携の在り方を示す研究であるため,対象者を推薦いたします.

愛知淑徳大学

商品販促における名刺デザインの提案
田中泰登(メディアプロデュース学部 メディアプロデュース学科 メディアコミュニケーション専修)
推薦者:宮田雅子
本作品は、店舗で使用される名刺のデザイン表現の可能性を探り、コミュニケーションツールのひとつとして提案した。伝統的な木工技術である組子の造形を取り入れた「建具店の名刺」、指輪のリングサイズを測ることができる「宝飾店の名刺」、香り加工を施した「パンケーキ店の名刺」など、五感に訴える作品を制作した。名刺としての可読性に加え、さまざまな印刷・加工の技術を用いて商品のイメージを強く印象づけることで、名刺のデザインの新たな可能性を意欲的に検討した点を高く評価した。
あやとりを再認識し伝承するデザイン ―「あやとりフォント」の制作を通じて―
 渡邉香純(メディアプロデュース学部 メディアプロデュース学科 メディアコミュニケーション専修)
推薦者:宮田雅子
昔あそびのひとつとして世界各国で親しまれている「あやとり」を題材とし、子どもだけでなく全世代の人々が楽しみながら創造的な遊びに親しむことができる作品を提案した。紐を使い、実際のあやとり遊びの要領で五十音の文字をつくることができる「あやとりフォント」の制作から、そのフォントを活用したロゴマークの制作、冊子『~ひらがなをつくって・まなぶ~ あいうえお あやとり事典』の制作へと展開し、密度の高い提案に仕上げた点を高く評価した。

北陸先端科学技術大学院大学

先端的医療デザインに関する研究
谷口俊平(先端科学技術研究科 先端科学技術専攻 知識科学系)
推薦者:永井由佳里 薮内公美
ウェルビーイング社会の実現に向けて、個人の生活におけるQoLを高める次世代型の医療デザイン開発研究に従事し、高い実績を示した。
Changes of Design Thinking in Complexity Science
Shen Tao(先端科学技術研究科 先端科学技術専攻 知識科学系)
推薦者:永井由佳里 薮内公美
デザイン思考研究が社会に普及したが、現実社会の問題はますます複雑化しており、従来の手法では解決策が得られにくくなっているとこが指摘されている。氏の研究は複雑性に対応するためのデザイン思考の改善策を検討し、SDGs等の社会課題に適合させることに成功した。
描画表現の認知構造についての研究
LI,MINGHUI(先端科学技術研究科 先端科学技術専攻 知識科学系)
推薦者:永井由佳里 薮内公美
知識創造に寄与するとされるスケッチを対象に、描画過程の認知構造の特徴を問堪える実験をおこない、創造性に影響を与える重要なファクターを特定した。

以上